単調って日常

だいたい特に意味はない。

濹東綺譚から

『濹東綺譚』を読んだ。初めての、それも偶然に出会った永井荷風である。

 

子連れの出先で、何か読める本を1分以内で探していた。村上春樹訳の『極北』というタイトルが目を奪ったものの、分厚さに少し躊躇った。とともに横に置いてあるタイトルと表紙に自然と手が伸びた。薄い本(*1)なのも良かった。

 

有名すぎる話なので解説は割愛するが、主人公である大江匡の玉の井の街をぶらぶら歩き、時にちょっと怪しげな内側に深入りするような性質は自分の中にも強くある。これに文の素晴らしさも手伝って、グイグイ惹かれていくうちに読み終わった。城東方向の下町エリアは守備範囲外なので、濹東綺譚の舞台である玉の井やその他の地名には興味津々であると同時に、Google Map片手でないと位置関係が掴みきれなかったりする。いま別の企画で放水路近辺(*2)のプロジェクトをひとつやっているが、こういうストーリーを念頭に掘り下げるのもおもしろそうだ。

 

登場人物でもうひとり気になる「翁」は、街角を観察する佇まいが考現学今和次郎を想起させた。観察眼の的確さと、味のあるイラストの組み合わせは一時期すごく憧れて社会学方面への興味の扉を開いてくれた。と同時に、イラストは全くうまくならず、今もずっと自分の引け目というか、同分野に手を出しかけては手を引っ込める原因になっていたりする。

 

*1: いわゆる「薄い本」とは薄い本違いである。脚注が使ってみたかった。

*2: 放水路、つまり現在の荒川は区の逆側で、歩くエリアは葛飾区や江戸川区の方が多かったりもするのだが、墨田に絡む地名はポツポツ出てきたりする。